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ポッドキャスト「生生裏裏」が面白いって話と、ランキングの希釈化の話

ポッドキャスト「生生裏裏」が面白いって話と、ランキングの希釈化の話

日常で、隙があればラジオや配信などをつけては耳から何かを聞いている生活をしているんですが、最近聞き始めたポッドキャスト番組「生生裏裏 」が面白いです。

成人向けコミックス分野でプロとして活動するまんのさんと、1冊目の同人誌制作を進めているでじまるさんのお二人が、成人向け漫画や同人文化の話題を中心にお話している番組です。

自分も、一同人屋の観点でちょっと畑は違うけど近しい場所の話を聞けるのが興味深いし、制作者視点でのエロ漫画、エロなるものについての語りが新鮮で楽しいです。

で、最近聞いて興味深かった回がこちら。



この背景として、今年6月、FANZA同人でAI作品がランキング上位を占めたことがあり、その結果プラットフォームが対応を迫られたことがありました。それを受けて、FANZA同人に作品を卸している作家としての見解を話していらっしゃるんですね。

FANZA、AI生成作品を隔離 今夏以降に表示制限を実施予定

ちなみに私のAI技術へのスタンスですが、チャット型AIを日常的に利用しており、また2023年当時は「試しに使ってみるか」と、AIイラストから自作絵を描いてみる という記事も書きました。さらに言えば、普段からイラストを見るのが好きなのでピンときたクリエイターは積極的にフォローしていますが、最近はちらほらとイラスト系AI生成者で「この人の作品傾向いいな」と普通に惹かれてフォローしている方がいます。

前述の記事を書く際には著作権法などを調べましたが、個人的にも日本の現行法の主旨である「機械学習の段階では不問とするが、出力段階で問題があれば他の著作権法と同じくジャッジされる」という落としどころは、末端の一創作者としても納得度の高い法整備だな、と評価しています。ただ、現段階ではこの「出力段階」のジャッジがまだ不定で、問題が起きた時の具体的な道筋が弱く、とはいえおそらく今後数年で大まか固まるだろうと国内外の報道には気を付けてみている……という人が以降を書いていると思って読んでください。

話戻しまして、この生生裏裏で話されているのは、巷でよくみかけるようなAI技術の是非論ではなく「実際にAI生成者が既存市場で台頭したら」という現実の脅威論だと思いました。

曰く、人気のプラットフォームでAI作品の売り上げが上位にくる現象は、「消費者の多くはAIだからと区別しないし、中身にピンとくれば買うことが証明された」と。そこからさらに「既存の作家からすれば、AI生成者の、特に作品を出す『速度』が驚異的だし非常に厳しい」という主旨で話を掘り下げています。

詳しい内容はぜひラジオ本編を聞いてほしいのですが、これ聞いて思い出した話がありました。

動きはじめた米国AI著作権判決と、 控えめにいって大騒動な米国AI著作権法論議の記録帳 福井健策|コラム | 骨董通り法律事務所 For the Arts

こちらは弁護士・福井健策さんが、最近の米国におけるAI裁判の動向をまとめたものです。

福井弁護士は長らく日本のアニメ・漫画・ゲームなどの文化に対する法律の専門家として活躍されており、また日本におけるAI法整備の議論にも関わっている方です。私自身、前述の記事を書いた際にも福井弁護士の解説記事は非常に参考にさせてもらいました。

で、思い出したのはこの部分。

報告書はここで、「原作の潜在的市場への影響」は狭く解釈すべきではないとして、AIがコンテンツを生成するスピードと規模は、学習されたものと同種の作品の市場を希薄化させる深刻なリスクをもたらすと明言しました。

これら一連の現象について「市場の希釈化(market dilution)」と表現されています。これはあくまで米国における裁判例ですが、ここで語られている「同種の作品の市場を希薄化させる深刻なリスク」とは、まさにこのFANZA同人ランキング問題のことですよねと。

AI生成者の作品が、すぐにすべてのランキングを塗り替えるということはないものの、このままだったらすぐにそうなるだろう、という実感をもたせるに十分なインパクトがありました。

正直話題として取り上げたものの、具体的な意見や主張があるわけではないんですが、ただこの「AI生成者の生産力に負けてしまうのではないか(ていうかすでに勝ち目ないよね)」という実感は、それこそ一クリエイターとしても肌感としてよくわかるんですよね。

なぜならAI生成者の人をフォローしているから。いい絵だなと一閲覧者の視点では思う一方で、やっぱりこの密度でこの速度はすごいねって一創作者として思っている。

とはいえ、私個人は昔から筆が遅いしめんどうくさがりで、AI使ってなくても私より高品質・高頻度で作品を出し続けている同人屋は山ほどいて、そういう意味では「勝ったことがない」人間なので、そこにAI生成者の層が増えたところで「まあ……あんま変わらんか」という気持ちもある(実際はそれどころではない規模で増えてるんだが) おそらく生生裏裏のお2人よりははちゃめちゃに楽観視しているところある。

さらに言えば、今現在AIを活用している商業フィールドにおける作家・映像作家さんもフォローしていて、いずれも技術に可能性は見出しつつも、現実にはめっちゃ手間暇かかってる様も見聞きしていて、「これ、実際に使うとなったらそれはそれで高度なオペレーション技術が必要なのでは」という実感もあります。



こちらのチャンネルを運営している三宅隆太監督は、代表作として「ほんとにあった怖い話」シリーズや映画「呪怨 白い老女」など、主にホラーの分野で現在も第一線で活躍する映像作家さんです。そんな方が、積極的に生成AI技術の実験とそのノウハウの周知をされているということで、私も興味を持ってフォローしていました。

なんで三宅監督がこんなことしているかというと、「現代の映画製作とは純粋なクリエイティブ技術以外にも、組織や企業に所属しその中で立ち回る術が要求されている。でも、そこに属さないでもクリエイティブできる方法も模索したい」と、プロとして活躍する方だからこその観点で活動されているんですね。その辺の話をしているのがこちらのラジオ。



今あげたいろんな話とは、遠いようで裏表というか。

結局これまでの古典的手法とは違うクリエイト手段が生じたことで、それまでに手段を持ってなかった人にも手段を持ちうるようになったよねという話でもあるし(私はそれ自体はとても喜ばしい技術の発展と思っています)、でもだからこそ新たな生産力が濁流のように生まれて、おぼれそうになる既存クリエイターもそりゃいますよね、という話にも行きつく。

その流れがどこにいくのかわまーったくわかんないし、あちこちで摩擦が起きてるのもよくわかる。

なので迂闊なことはいえないけども、それでも個人的にいえることがあるとすれば、いまのAI周りの濁流は00年代くらいのインターネットを取り巻く空気に似てるなあと。

私は90年代終盤から四半世紀ほどネットにどっぷりの人生なんですが、00年代当時はまだアングラな空気が色濃く、実際に違法アップロードなどが今よりもっとネット利用者の近くにあったと思います(量的にはたぶん現代の方が多いんだろうけど、意識の上でね) それでいて日に日にインターネットの社会における影響力は増していたので無視することもできず、テレビはじめとしたマスメディアは警戒態勢をとっていたなと。「使ってるだけで業界人からは悪者扱いされる」とは当時芸能人やタレントさんの裏話でよく聞きました。

それでネットはどうなったかというと、もちろんインターネット自体はなくならないけど、権利的にクリーンなコンテンツの流通が増え、一部にはサブスク映像プラットフォームや電子書籍コミックなどの市場全体に大きな存在感を持つプレイヤーも生まれて、今となっては多くの人にとって、もしくは社会構造としてなくてはならないものになっている。

それでいて当時のアングラな空気は、少なくともネットの主流からは外れていったようにも思います。特に海賊版やデッドコピーなどに対する意識は、実際の裁判や判例が重なるにつれて、大きく変わっていますよねと。

その動きと同じになるのか全く異なるものになるのかはわからんけど、AIの今後に注目はしています。

話がそれまくったけど、ポッドキャスト番組「生生裏裏 」は他にも面白い話がいっぱいなので、気になる方は毎週チェックだぜ!
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