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販促目的に50ページあるマンガ同人誌をイベントで無料配布してみた話

先日は関西コミティア56に参加しておりました。お立ち寄りいただいた方々ありがとございます。

ところで今回の新刊は無料配布本だったんですが、新規読者の獲得のため意識して戦略的なことしたので、その結果と考察を残しておこうと思います。


まず前提として、現在は主に創作ジャンルで「徒花の妖精姫」という同一シリーズを刊行しており、2019年5月時点で4巻まで出ています。

1巻を出してから2年経っており、当初からお買い上げいただいた方も多くいらしているんですが、一方でイベント参加ごとに売り上げの比重が最新刊に寄っていくのも実感していました。

シリーズ作品とは1巻を買った方が続刊を手に取るのが自然の摂理……シリーズの中で最も数が出るのは1巻だし、1巻より続刊がはけることはないわけですよ。まあまあ在庫も残ってる中で、1巻がほとんど動かず最新刊だけ動いている状況はちょっとまずいな、とはここ最近の懸念事項でした。

(念のため、イベントや通販などで最新刊をお買い上げいただいた方が迷惑だ、という話ではありません。作品のすそ野を広げるためには、これから続刊を手に取ってくれるかもしれないまだみぬ新しい読者を開拓せねば、という作り手視点の話です)

加えて徒花の妖精姫の特徴として、1巻が一番高いんですね。

もともとシリーズ化する予定もなく、この巻だけの書き下ろしのつもりだったので、盛りに盛って漫画120ページの定価1000円。同人誌にしてはまあまあ分厚い方だと思いますが、見知らぬ作品に試しで1000円を出すというのは、なかなかリスキーな行為だよなあと内なる読者がささやいていました。

色々考えて、思いついたのが「50ページある試し読み冊子を無料配布する」というものでした。それも、特殊紙表紙で盛った、ちょっと豪勢なやつ。実際の写真これ。

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色が変わってるように見えますがこれは写真のフィルターじゃなく、現物がもうこうやって偏光する紙を使っています。

そういうものを作ることにした理由は色々あるんですが、まず第一に「単に配っただけでは受け取ってもらえない」と思ったわけです。

日常生活でも、日々届くメルマガやダイレクトメールなど、大半の人は受け取っても見出しだけ一瞥して捨ててしまうことも多いでしょう。一方で、化粧の新作の試供品なんかは自ら受け取りに行くほど注目して集める人もいます。

後者になるためには様々な条件とフックが必要だなあと考えて、今回は「まさかこれが無料!?」という驚きと、「なるほど、そういう理由で無料なのか」という納得に狙いを定めて、特殊紙装丁の50ページの無料配布本に落ち着きました。

「まさかこれが無料!?」という驚きというのは、一般的にA5サイズの50ページの同人誌というと、即売会では数百円で頒布されています。それが無料で受け取れるというギャップで驚きが生じます。そこに特殊紙装丁という下駄も履かせました。

「なるほど、そういう理由で無料なのか」という納得というのは、50ページの漫画というのも元は100ページある本の冒頭ページであり、その本編に誘導するためのものなんですよと腑に落ちてほしかったんです。仮に、驚きだけだと「無料ということは、価値のないものなのでは?」と不審に思われてかえって距離を取られるかもしれないなーと思ったので、無料にしたことの落としどころはちゃんと作ろう、と。

また作り手が価値を感じていない中で安売りしてしまうと、消費者もそれを感じ取って安いなりのものとしてみてしまうもんでないかなと。なので「価値はあるけど、あえての無料です!」と力いっぱい伝えるためにも予算はしっかり割きました。

また中身はかなり強引に「続く!」で終わっているため、何も知らずに読んでいたら面食らってしまう可能性もあるので、表紙をめくってすぐに「これは本編冒頭のみ収録しています」と説明し、巻末には電子書籍や作者のSNS情報を掲載することで落としどころを用意しました。

なおネット上での公開も今のところは控えています。ネット空間だと今どき数十ページにわたる漫画なんか珍しくないので、単に「公開しただけ」では驚きが生じにくいだろうな、という判断です。今後も絶対にやらないというわけではなく、やるならもう少し強いフックが必要だなあと思っています。

これだけでもインパクトあるんじゃないかなーと思ってましたが、更にダメ押しで現地でもう一工夫。今回、たまたま大通りに面した島角配置だったので、その立地を最大限に利用しました。

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解説すると、大通りから目にしやすい机側面に、無料配布の告知と現物を置きました。

即売会に参加したことあるならピンとくるでしょうが、一般的なディスプレイの向きである「机の正面」とは、道でいうとちょっとした路地に入らないと見えない位置なんですね。一方で「机の側面」というのは、交通量の多い公道を歩いているだけで目に入る位置です。

路地に入らないと手にできないものよりも、公道を歩いてるだけで手に入る位置にあった方が、手に取られる確率はそりゃ高いよね、という判断でした。

(ところで、このポスターを作ってる最中はあんまり意識してなかったんですが、いまみると中身の説明ってなにもないなあ。フラットに手に取ってもらえた面もあるだろうけど、もう少しだけ中身の説明した方が、最終的な納得に繋がったかもしれないです)

参考までにサークル正面はこんな感じ。側面を少し使ってるので、普段より使える範囲が狭くなってるのがわかるでしょうか。

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それで結果です。

まず第一に、無料配布の数はどうだったか。これは想像以上に受け取ってもらえたな、と思っています。

普段の平均頒布数の5~6倍ほどの部数を持ち込みましたが、最終的には13時過ぎにはすべてはけました。イベントには15時ごろまで参加しており、その時間まで人通りが多かったので、もう少し積んでおけば最後まで持ったかな~というところ。

ただ、これだけ掃けたのはやはり立地の効果も大きかったと実感しています。

本は机の正面と側面に向けて置いており、正面側はスペースに興味をもってくれた方向けに、側面は通りすがりに立ち止まった方向けに配っておりまして、やはり側面のほうがよくはけましたね。

最初は正面:側面:在庫で1:1:1と割り振っていましたが、開場1時間ほどで側面分がなくなりかけて在庫をすべて側面に。それも1時間ほどで底をつきそうになったので、その時点で数部になっていた正面分も側面に移して全てなくなりました。

最終的に正面と側面の配布数は、ざっくり1:2くらい。

思ったよりはけたなあという感想ですが、島角配置ではなく島中配置だと単純計算で三分の1になるわけで、配置次第ではぐっと数が減るでしょうね。

第二に、本編の売り上げに繋がったか。劇的に売れた・話題になったというわけではないにしろ、思ったより手ごたえがあったなという感想です。

序盤で説明した通り、当サークルではイベント頒布の比重が最新刊に寄ってた中で、今回のイベントで最も売れたのはシリーズ1巻でした。

つまり、それだけこのシリーズに初めて触れる方がいらしたということだし、当初の目的だった新規読者の獲得としては上々だろうと思っています。

(一方で、「最新刊だけ買ってくれる方」はいなかったので、日ごろのサークル活動の不徳も実感いたすところです)

無料配布と1巻の売り上げを比較すると、6:1くらい。見本誌やサークル概要だけで買ってくださった方もいたので、すべてが無料配布の力ではありませんが、今後の目安にはなるかなあと思っています。

数値の結果としては以上です。

数値以外の効果としては、単純な話、頒布数が数倍になるといつもの数倍の参加者の方がサークルスペースに立ち寄ってくれるわけで、そこで交流する楽しさが増えました。

うちのような零細ピコサークルだと、イベント参加している時間の大半はただ座って店番してる状態なので圧倒的に暇な時間なんですが、そこを穴埋めするように無料配布に興味を示す方がいらっしゃるので、いっちゃなんだが即物的な効果としては「時間つぶしに最高」だったように思います。

スペース前に立ち止まって明らかにこっちみてるとか、立ち読みしたけど戻された方に「お土産にどうぞ」と声かけて配る程度でしたが、そこきっかけで会話が広がって作品について話す機会ができたり、「どうせもらうならお金だします」と気前のいい方にキュンとしたりと、イベント参加してるなーって感触はぴかいち。

イベント参加に来たけど在庫は全然動かないし、朝の挨拶以外で誰とも話さなかったし、自分は何しに来たんだ……という無力感はピコサークルあるあるですが、そこはだいぶ緩和されたなあという感想です。それだけでも作ってよかったし、参加してよかったなーって思います。

そんなわけで、いい経験でした。

無料配布本は他イベント参加時にも長く配るはずが、今回で想像以上に在庫がはけてしまい再販するべきか悩み中。

作ってみて楽しかったし、効果も見えたし、今後も続けたい気持ちはあるんですが、再販するにしても経費が普通にかかるわけで。

これ自体が直接利益を生み出すわけじゃないので、無料配布本をだしたせいで予算が尽きて新刊が出せない! となっては本末転倒になってしまう……そこはバランスだし、今後の課題です。

南科そう(ナンカソウ)

デジタルにも「アナログ感」なるものを追い求めるオールドタイプヒューマン。

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